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橋本一子/miles blend

名前こそ知られていないないものの、どこかで耳にしているであろうことは間違いないCM音楽などを幅広く手がけているマルチプレイヤーにして作曲家の橋本さんが、ストレートにピアノトリオジャズに取り組んだ作品です。

「jazz Life/2001/MAY」に本作発売時のインタビューが掲載されているのでその引用を交えつつ。(以下断りがない限り引用は同誌)

橋本:(前略)でも一番の成長は、私がジャズにビビらなくなったこと(笑)。

ジャズに限らずですが商業的成功を下に見る気風というものがこういう言葉を言わせるわけで。ただもちろん、ジャズに対する度を越えた敬愛が言わせた言葉のようにもおもえます。

既に二十年以上のキャリアを持つミュージシャンの言葉としては後者でしょうね。好きすぎて手が出せなかった。(笑

そんなベテランといっていい演奏家がようやく録音できたジャズは当然すばらしく、書くことといっても「良かった」の一言でかまわないのですが、演奏フォーマットであるピアノ・トリオの話とからめてあれやこれやと。

ピアノ・トリオとは、ピアノ、コントラバス(ウッドべース・エレキべース)、ドラムによる演奏フォーマットのことを指します。ときに、ドラムがギターになったりしますが、基本は、ピアノ、べース、ドラムです。

さてタイトルにある「miles」とはとうぜんあのマイルス・デイヴィスのことです。不世出のトランペッターであり、サウンドクリエイターとしていまなお影響を与えつづける偉大な演奏家の周辺を捉えたCD、つまり「miles blend」。

橋本:とにかく素直に、プレイしたい曲は何かとリストアップしてみたんです。ステージでずっと演ってきた曲を、バランスも考えて並べてみたんだけどやっぱりマイルスだった(笑)。

ピアノでマイルスを演奏するというと、思い出すのは、やはり今に至るまで影響を与えつづけているマイルスゆかりのピアニスト、ビル・エヴァンスです。

ビル・エヴァンスといえば繊細かつ内省的なハーモ二ー、そしてピアノ・トリオを芸術にまで高めたジャンルの創設者として名高いのですが、自身による演奏のあまりの完成度の高さに以降の演奏家が、エヴァンス派の区切りでしか活動できず、それを超えることができていません。

よって、ジャズピアノ・トリオ好きは、

”ビル・エヴァンスにはじまりビル・エヴァンスに終わる”

と公言してはばかりません。

そして演奏家自身もそれを認めているからこそ、前述のような言葉が出るのです。いや、たぶん。^^;

そんな状況のなか、ビル・エヴァンス・トリオのドラマー、ポール・モチアンは、ドラム、サックス、ギターによるトリオを組んで活動をはじめます。

ハーモ二ーを完璧に和音を操るピアノにかえて、やや不自由でどうしても揺れてしまうギターを選んだことにより、

”完璧にならない部分を楽器間の共有スペースとして使う”

という発想が、見事にはまった瞬間です。個々がリズムを刻み、ハーモ二ーを作り、メロディを奏でる。ジャズの演奏においてコラボレーションという言葉が良く使われますが、このトリオの演奏はまさにそのお手本です。(「ポール・モチアン・トリオ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」なんておすすめ)

そしてそんな流れが、本家のピアノ・トリオにも影響を与えた―――というのが1980年から90年にかけてのジャズ界の動きであります。あー、長い。^^;

その後、一時停滞していたピアノ・トリオが再び脚光を浴び始めそんな流れの中、ベテランが満を持して発表したアルバムである、なんてことを意識しながら聞くとより面白いのではないでしょうか。

と、ジャズ基礎講座のよーなテキストでCDの内容には触れていませんが…こういう流れで作られているんです、このCDは。^^;>M氏(2001/2/23)





引き続いて曲ごとの感想など。

All Blues 初出はジャズというジャンルを超えて以降の音楽全体に影響を与えた音楽史上にのこる傑作アルバム「kind of blue(Miles Davis)」。オリジナルよりテンポが速いのは現在の標準的な解釈だろうか?定型のフォームを繰り返すウッド・べースの上でひたすらに好き勝手叩いているドラムが良い。

ドラム・ソロが終わりメロディーの提示が終わった4.30過ぎあたりからの抜けた演奏が聴きどころか。

Sorcerer ソーサラーってゆうと魔術師ですか?そーいや「浪漫の騎士」なんてジャズのアルバムもあったっけなどと気分はファンタジーってこともなく、ジャズの曲。走りそうで走らない、落ちつきそうで落ちつかない、どこにどう乗ればよいのかわかったよーなわからない、演奏家にとって実に難しい曲。

そんな弾き手に辛い曲をさらりと力み無くはじめるオープニングがすばらしい。乗りそうで乗らない曲をイントロ無しではじめるって、大変なことなのよ。^^;

Alice In Wonderland 前曲に続いて巧みなブラシワークをみせるドラムがいきなり聴きどころ。注意しないと限りなく甘く、メランコリィへと落ちていく楽曲に、ジャズならではの凝ったハーモ二ーとリズムが寸前でそれを押しとどめる、寸止めの美学。

個人的にはこういう、甘い小品を演奏したときに演奏家の腕が最も問われると思います。んー、小粒でもぴりりと辛い、を求めるのは日本人の感性なのかもしれませんが。

Pinocchio 「不思議の国のアリス」に引き続き「ピノキオ」とくるとディズニー連続ですか?といいたくなるけれどこちらはマイルスバンドのサックス奏者のオリジナル。日本人では最近ポンタボックスがリズムを強調したカバーをしていて、そちらと比べるのも面白いのでは?現代のジャズの進化の二系統がよくわかります。(→「PONTA BOX LIVE AT THE MONTREUX JAZZ FESTIVAL」)

Autumn Leaves 「枯葉」…枯葉ねぇ、とジャズ好きならばこの曲だけでベストテンを組めるほどの大スタンダード。これって演奏家がやりたい曲であって、正直、視聴者はもうお腹いっぱいなんじゃ。(笑

Aroma 橋本さんのオリジナル。三拍子の一見甘い小品にして聴き流せばやっぱり甘い小品。細かく聴くと暴れるドラムとピアノを必死でまとめよーとしてるように聞こえるべースが大変だろうなぁ、と思うべーシスト受難の曲。

There Is No Greater Love やはり有名なスタンダードに「There Will Never Be Another You」というのがあって混同されがち。個人的にTal Farlow(渋っ)の演奏が耳にこびりついてしまったんで。^^;

Fall 「Pinocchio」につづきサックス奏者、ウェイン・ショーターの作曲。ついにべースがどこかへ行ってしまい、ドラムとピアノのデュエット状態に陥ってしまうんですが、やっぱりピアノ・トリオのなかで一番必要性が薄いのってべースなんだろなー、と思ったり。

Edge Of Circle 乗りそうで乗れないビートの二曲目。これは一体なんじゃらほい?と耳が悩んでしまうのだけれども演奏してるほうは、つか、このドラマー、メンバーの演奏聞いてる?(笑

Depth 前曲の緊張感が一点して、やっぱり緊張しているのだけれども、演奏者の緊張を視聴者に強いることのないこれが橋本一子のいわゆる半覚醒サウンドなのだろーか。

音楽が模索してきた美しさの現代における一つの典型ともいえる、繊細で線の細い、楽曲という構成物がゆるゆるとなだれくずれおちる瞬間の美しさがこの演奏にあらわれています。

こういう曲に安らぎを感じるというのは不健全なことかもしれないけれど、数百年前の古典を引っ張り出し自分を昔に帰すことで癒しなどと偽るより、わたしは現在の、今そこで響いている音を求めたいと思う。

今、そこここで響く音は古典のように澄み渡ってもいなければ、明快でもなく、全てを受け入れる度量の広さというのもなく、文明の袋小路を象徴しているかもしれない。

でも、それでも、生きるということは過ぎ去った過去にあるのではなく、仮定した未来にあるわけではない。それでも今に在らねばならない。

そしてこの曲、このアルバムは、今そこで響いている音を集めて美しく装わせたものなのだ、と思う。(2001/2/27)




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