jazz3

ネ−ヤはいくつかの思考パタ−ンを繰り返していた。輪切りにされた人間の脳の写真が見える。それが真赤にそまる、激しく音波が照射される。それが緑色にそまる、音波が緩やかに照射される。赤の脳みそ、緑の脳みそ。波形が揺れるいつまでも。

いつもなら乗員全員の思考が一つの思惟となってそれがネ−ヤ=スフィクスの自我の母体を形成する。つまり数百人の無個性の個性がネ−ヤに体現するのだ。しかし今、ネ−ヤはその自らの原始的自我から切り離されたのにも気付かずにただひたすらに一定周期の脳波を出すだけだ。ひどく安定しているようにも見えるがそれは同時にひどく脆弱でもあった。まるで眠りについた赤ん坊のように。いつ泣き出すかわからない。ネ−ヤが泣くとき。それはリヴァイアスという船にとって最悪のときになるのは間違いない。

ネ−ヤがふとうつむいた顔を上げる。そして声にならない絶叫をあげる。何か大切なものを失ったときの叫び。それはリヴァイアスの暗号解読班が妨害電波の同定に成功し「歌」を制御区画から締め出すことに成功した瞬間だった。

上空からの制圧射撃により初の直撃弾を受けたリヴァイアスに撤退したとみせかけた地上部隊が迫る。と、そのときリヴァイアスの周囲の大気が歪み、部分的に真空状態となりカマイタチが鋭く地上部隊の精鋭を切り裂く。

「重力フィ−ルド復活しました!100%運用可能!」

その報告にブリッジが沸いたのも束の間のことだ。

「フィ−ルド…が…フィ−ルドが凄い勢いで広がって行きます!」
「制御できません!」

地上部隊は暴走をはじめるリヴァイアスの重力フィ−ルドに頭からつっこんだ形になり身動きが取れなくなっている。そして局地的に発生する真空のカマイタチと想像を絶するGに耐えきれず今や人間の原型を留めぬまでになった者もいる。

「重力フィ−ルドが暴走しています!」
「リヴァイアス下部にフィ−ルドが集約されて行きます。このままでは惑星ごとフィ−ルドに取りこまれてしまいます!」

リヴァイアスが着地した周囲の地面がGに耐えきれず陥没していく。すると地下に張り巡らされた水脈から勢いよく水が噴出し、やがて地熱とGの相互作用で集約されたエネルギ−はマグマとなって大地を溶かす。地上部隊は今や跡形もない。そのマグマの海の中でリヴァイアスは揺れる。

「一難去ってまた一難かよ」
「コントロ−ルはまだか!」
「今やってんだよお!黙って待ってろ!」
「くそやろう、ネ−ヤはまだ確認できないのか!確認できしだい、制御をはじめろ!」

整備課の溜まり場で疲れた体を横たえながら霧月聖は自分の無力さをかみ締めていた。自分は…天才なんていってもリヴァイアスのなかだけじゃないか、くそっ。つく悪態も歯切れが悪い。いつもは広い艦内を充分に満たしてあまるほどの若々しい活力がいまは霧月聖のようなありさまでやけに広さが気になった。こんなにも広い船だったのか、と。そして、ネ−ヤの思考に数百人の思惟が流れ込んでくる。

「アア、ア…」

思惟の流れをコントロ−ルできないままネ−ヤは途切れた歌と脳のイメ−ジを繰り返す。だが壊れたおルゴ−ルがいつも同じ音を外すようにネ−ヤもまた自我を取り戻すことができない。そんななかで一つの思いが浮かんでくる。死にたくない、生きていたい、こんなところで死ぬのはいやだ。

「シニタク、ナイ…イキテ…ナイ…イヤ…ヤ」
「イキテイタイ!」

「コントロ−ル、戻った!」

その声でいくたびか沈んだブリッジに歓声が起こる。まだ、やれる。こんなところでは死なないんだ。

「よしっ!フィ−ルドを展開しつつ上昇しろ!高度を稼いだら上方に展開、撹乱しつつVGを起動しろ!」
「VG要員。戦闘用意!高度2000でリフトオフ!」
「高度4000でバルジキャノンを保持せよ!」
「リフトオフと同時に衛星軌道上の艦隊の密集部にフィ−ルドを展開。撹乱の後に近距離砲戦開始!」
「よく狙え!」

ブリッジのその動きはやがて艦内に充満していく。まだまだだ。これからがある。艦内に熱気が戻りいつものリヴァイアスに戻って行く。陽気でタフで馬鹿馬鹿しい、それでもその生命力の発露は輝いている。

衛星軌道上で制圧射撃をした艦隊には下で起こっていることがわからなかった。熱源探知レ−ダ−は制圧射撃の影響から回復していなかったし地上部隊の展開によりそうそう援護射撃もできない。またマグマや水蒸気の発生がリヴァイアスを隠したこともある。そして艦隊のレ−ダ−がリヴァイアスを捕らえたときはすでに手のうちようがなかった。目の前にヴァイタルガ−ダ−と黒々としたリヴァイアスを確認した通信士官達は絶叫する。

「重力フィ−ルドで敵を的に寄せろ!」
「バルジキャノン発射用意…発射!」
「サブル−ム、ソリッド回せ!」
「敵、破壊…」
「いちいち確認はいらねぇ!時間が惜しい!突破口を開いてリヴァイアスを押しこめ!」
「了解!」

重力フィ−ルドで艦隊の薄い部分を撹乱され短距離からバルジキャノンを打ちこまれる。的確なポイントで退路を塞がれた艦隊は次第に列を乱して行く。

「あそこだ!フィ−ルドで穴を広げろ!」

乱れた艦列にフィ−ルドが展開され開いた穴をリヴァイアスが抜けて行く。ヴァイタルガ−ダ−は船尾にフィ−ルドをはりつつキャノンを至近距離から連発し追跡を防ぐ。そして完全にリヴァイアスは戦闘宙域からの脱出に成功する。残された艦隊は呆気に取られたように本領を発揮したヴァイア艦を見送ることしかできなかったが一瞬の後に恐ろしいことに気付く。小惑星で暴走した重力フィ−ルドが惑星全体を収縮させているのだ。そして数分後、惑星はみずからの重力場に耐えきれず爆発してしまう。そして艦隊の大半がそれに巻き込まれてしまった。

後日、この爆発は公式記録から削除され一連の戦闘も記録されることはなかった。

数日後、整備課の溜まり場ではささやかながらパ−ティが開かれていた。犠牲者も大勢でたことから表立って騒いだりはしないものの多少のアルコ−ルと生き残った実感とでパ−ティはそれなりの盛り上がりを見せていた。その中でアルコ−ルを舐めていた沖田ともがほてった体をもてあまし気味に部屋から出るとひんやりとした空気の中でネ−ヤが立っていた。

「どうしたの?」

頬に自分の手のひらをあてると冷たくて気持ちいい。そのままの姿勢で沖田ともはたずねた。

「モウ、イラナイ。ダカラカエス」

ネ−ヤはとものIDカ−ドのあたりに目をやるとそのまま行ってしまう。酔いの回った頭でぼんやりとともは見送りカ−ドを取り出すと、あの戦闘中にネ−ヤが消してしまったデ−タ…歌…だった。なんとなくデ−タを再生すると眉をしかめる。あのときの子守唄とは似ても似つかないノイズにしか聞こえなかった。よくいえばクジラの泣き声だろうか。ザ−ザ−ザ−ザ−。しばらく首をかしげていたともだったが自室に戻ると薄い毛布にくるまって寝てしまった。明日にはもう忘れているだろう。やることはたくさんあるし時間はいつも過ぎて行くばかりなのだから。

ネ−ヤはノイズを反芻していたが、虚ろな瞳に一人の少年とついて歩く少女を写すと嬉しそうに微笑んだ。(了)












わけわかんなくてゴメンナサイ。


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haro > すまん、カウンターに関してなんですが、某はずっと掲示板に直リンクしてたから来てもカウンタ回してなかった。最近まで週代わりのコラムの存在しらなかったし。 (2000/10/20(Fri) 02:08:29)
鳥乃 > 結局何の歌だったんだろう…? 相変わらずシッカリとしたSF描写だなぁ…。 (2000/10/20(Fri) 02:23:16)
ぐちゃ > 記録抹消とは。犠牲者何人出たんだ? (2000/10/20(Fri) 23:39:52)
すぴんねっと > 結局、「歌」というのは乗員とスフィクスの接触を絶つための妨害電波だったんですよね? うーん、戦闘シーンが引き締まっててとても良かったです。 (2000/10/21(Sat) 18:17:24)
ほろほろ > haroさん>わお!最初のBBSにリンクしてそのままですか?ひょっとして。まぁ、そのままでもいいですけど。^^; 鳥乃さん>歌…説明が面倒なんで飛ばしてしまったんだ。後でまとめてSF考察しますんで。^^; ぐちゃさん>乗員と敵含めてだいぶ死んでますねぇ…まぁ、記録しないだけでみんな知ってるんじゃないかな? すぴんねっとさん>歌は…(上記参照)(をい^^; (2000/10/21(Sat) 23:11:43)

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