pale blue dot 3

「この奥にはろくなもんが無いよ」
「けっ、ときどきこっちまで嫌な匂いが漂ってくるんだ」
「ポイント稼ぐんだったら…そうだなぁ…いい方法がある…けけ…悪い方法じゃない」

その区画は荒れていた。先の見えない状況と厳しい締めつけ。たがの外れた連中は廃棄物処理区画周辺にたむろしはじめた。もちろん宇宙では空気の入れ替えなどは不可能だから空気浄化システムで常に空気を循環させる必要がある。人間の五感でもっとも鈍いのは嗅覚だそうだが、ここのところの悪臭は耐えがたかった。看護課では頭痛を訴える患者が増えたという。廃棄物ごと汚れた空気を排出してはどうか?との提案が出たのにはそんな理由があった。酸素はあるが空気浄化に回す十分な水が無い。それならいっそ、ということだがこの航海にどれだけの酸素量が必要なのか知っている人間なんて誰もいない。…ガ−ディアンズの態度は相変わらずだったがその命令に不満は無かった。そして数人のグル−プで廃棄物処理区画へ準備に向かった。

IDカ−ドの発信音をレ−ダ−で確認して区画からの退去を促す。退去がすむと、次は廃棄物のなかにまだ利用可能な物資があるかどうかを確認する。スパナ、ペンチ、缶詰1ダ−ス、手回しラジオ、調味料一式、バニラエッセンスの瓶にドライフラワ−の花束。徒労だったような気がしみじみと湧きあがって思わずその場に座り込むと同じようにしている人影が一つ。軽く手を挙げたついでに肩をすくめて見せると相手も同じように首を振って見せた。そして二人はなんとなく廃棄物の山を眺めぼんやりとしていた。

二人は簡易宇宙服に着かえるとその場に残った。どういうわけかこの区画の隔壁は外部コントロ−ルを受けつけないらしい。二人は腰の係留ベルトを壁のフックに固定すると隔壁を手動で開き始める。船内と宇宙の気圧差によって急激に室内の空気が吸い出されて行く。そして温度差により空気中の水分が急速に氷へと変化する。何ヶ月も溜めこんだゴミの回りを急速に凍った霧状の水が取り巻いていく…が一瞬後にはもう見えなくなる。

廃棄を確認すると二人はまたぼけっとする。無重力に身をゆだねているとふと、ここが何処かを忘れてしまう。無重力に恐怖はあるが悩みは無い、そんなことを思い出すと宇宙服のなかでやつれた体の力をすっかり抜いている。二人はしばらく漂っていた。

ぼんやりしていると相方が手を振り回し何かをわめいている。「酸素を確認しろ」…酸素残量を確認した瞬間、血が凍った。残り30秒。どうしてだ!確認はしたはず…思わずパニックになりかけるが相手が早かった。恐慌状態の相手が無重力で暴れメットが音がなりそうなほどあたる。残り20秒。思わず突き飛ばしたときその方向に緊急避難用ポッドのライトが見える。あれだ!腰のベルトを思い切りひっぱると反動をつけて跳ぶ。無重力なのが幸いだ。相手のベルトを固定したフックを蹴飛ばすと相手は突き飛ばしたままの勢いで跳んでいく。自分のベルトが伸びきる手前で腰からベルトを切り離す。残り5秒。相手が壁にぶつかっているのが見えるが方向転換も出来ないのでそのままぶつかってしまう。二人はからみながらもポッドへ向かう。ここで酸素が尽きた。

肺が悲鳴を上げる…十分に準備をしたうえでなら人間は真空中での事故からも復帰できるがそれは高い技術を備えた医師団がいてこそだ。それでもポッドに辿りつくとハッチをあけようとハンドルを回す。が先ほどのバ−ジの際の大気中の水分で凍っている。思わず悪態をつきかけると目の前が真っ暗になりかける。その時、隣から足がのびると凍ったハンドルを蹴り飛ばす。反動ですっ飛びかけた相手は偶然からみついたベルトで次の瞬間に目の前に戻ってくる。そしてその勢いでハンドルが回り始める…ハッチをこじ開け非常用レバ−を下げると狭い避難ポッドに酸素があふれこむ。はぁ、はぁ、はぁ、荒く息をつくと新鮮な空気をたっぷりと吸う。げほげほとむせ返っている相手を見ると、目があう。そして座り込みながらお互い片手をあげる。緊急を知らせるビ−コンが動作するのを確認するとおかしなことに気づく。

「なんか匂うぞ、いや良い匂いだけど…」
「さっき飛んだときにバニラの瓶をわっちまった」
「食い意地がはってるんだな」

結局、ニ時間たって助けがきた。それまでには狭いポッドに充満したバニラの匂いはすっかりこちらにも移っていた。隔壁の内側に戻って一息つくと俺達二人は馬鹿笑いを止めない。大気循環システムのおかげで艦内にバニラの匂いが充満していたからだ。そして馬鹿笑いは終らない。馬鹿馬鹿しさも変わらない。俺達はこんな環境にも適応しはじめてきているようだった。今日が明日も繰り返すのだと勘違いしたまま。

名前も聞かなかった相手とわかれたときに、床に花びらが一枚落ちた。枯れてすっかりドライフラワ−へとかわっていたがバニラエッセンスをかぶったところだけ染みのように青くいろが浮き出ている。それはいい匂いだった。

匂いは数時間で浄化され、看護課の集計では頭痛患者は減ったという。







宇宙船って臭いはずだ!という思いこみで書きました。^^;


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鳥乃(謎な者) > 臭いのは嫌ですねぇ〜…。(笑) バニラエッセンスって少しなら良いんだけど大量にあるとヤッパきついですね…(意味不明のレスだ…汗) (2000/06/26(Mon) 19:53:30)
長安(治世の能臣 あおい擁護衆) > 空気の流れがなさそうだから、臭いが、こもるかもしれませんね。 (2000/06/26(Mon) 21:24:43)
神無 > バニラエッセンスの匂い好きですよ〜♪いくらでもおっけい(笑) 話に動きがあって凄いです…。 (2000/06/26(Mon) 22:56:00)
高原ユウ > やっぱり、きっちりとまとまっている作品は良いですねえ。一度でいいから書いてみたいなあ(遠い目) (2000/06/26(Mon) 23:18:38)
アルファン > いやぁもお…どうなればこういった作品が思い浮かぶんだか…。 (2000/06/27(Tue) 00:12:38)
ほろほろ > レスさんきゅう!鳥乃さん>やっぱり「エッセンス」ですからねぇ。 長安さん>ある程度は浄化も可能でしょうけど、ね。 神無さん>いくらでも…って。ケ−キ屋さんでバイトでもしてたんですか?^^; 高原さん>まとまってるというか…短いだけです。あ、でも今回はなんと5KBなんですよ、今までは2KBだったのに。(爆) アルファンさん>投稿時間を確認していたら夜の9時から投稿が無かったので「これはいかん」と思って強引に書き始めたんですよね。やっぱり6〜8時間に一つくらいは新規スレッドが欲しいですから。←という管理人的発想のもとに生まれた文章です。^^; (2000/06/27(Tue) 02:03:08)
すぴんねっと  > 凄いっす、ほろほろさんは・・・。絶対俺って、ヤマ無しオチ無し意味無し(汗) それはそーと、バニラエッセンスはガキの頃美味しいのかと思って飲んだ覚えが(爆) (2000/06/27(Tue) 02:05:33)
ほろほろ > 飲んだんですか〜!?…で、どんな味が^^;(そういや、バニラエッセンスだけの味ってどんなだろ。ご存知のかたいらっしゃいます?五日目のカレ−の如く、煮詰まったバニラの味なのだろ−か。)実は裏設定でこのすっ飛んでくキャラがスピンネット氏だったりしましてバニラつながりで、偶然ですねぇ。^^;(書かなきゃ誰もわかんないんだけどさ) (2000/06/27(Tue) 02:33:22)
すぴんねっと  > ああ、そうと言われるとどこか間抜けっぽいところがスピンな感じが! ありがとございます♪ 味は・・・ただ不味いとしか。全然甘くなんかなくてむしろきっついとゆーか(^^;) (2000/06/27(Tue) 13:13:45)
ワイルドキャット > あ、私もなめたことが一度……(笑)辞書で調べたところあれはラン科の植物の種を成熟前に発酵させたものらしいです。そりゃ不味いわ(笑) (2000/06/27(Tue) 22:18:20)
ほろほろ > ほぉほぉ…ってことは発酵食品だったのですね。アレとかコレといっしょで。(笑) (2000/06/27(Tue) 23:28:18)

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