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His anxiety どうも、たのじです。 高原さんが投稿してくれたので、こちらも約束通りの投稿です。 「リヴァイアス」関係で書くのはこれが初めてですが……。 ま、ご笑覧ください。 ***************************** 相葉昴治の不安 〜His anxiety〜 昴治> ――あおいによると、その噂は、一次航海の時から囁かれていたらしい。黒尽くめの”死神”、そいつは、どこからともなくやって来て、相手を殺す。それも、相手に一切の苦しみを与えず、一瞬の内に、その人物が最も美しい時、それ以上醜くなる前に殺す……らしい。 当事者になってからその話を聞いても、俺にはぴんとこなかった。なんと言っても、内容が現実離れしすぎていて、ナンセンスだ。ミステリアスなものに憧れの強いジュニアハイや、ハイスクールの女の子なら喜びそうな噂だな、とは思うけれど。 しかし、俺は実際そいつに会っているし、言葉まで交わしたのだ。あいつが存在する、ということは事実なんだろう。 ……俺は、その事件にはほとんどと言っていいほど関わっていない。ただ、ちょっとした現場に居合わせて、運悪く怪我をしただけだ。一体あいつが何をやったのか、事件とはなんだったのか、俺は知らない、誰も知らない。そう、事件があった、ということすら。 とにかく、何か複雑なことがあったのは間違いない。面倒で、ややこしくて、俺達のような普通の人間では――そう、あいつのようなモノでなければ解決できないことがあって、そして終わったんだ。あいつは、そう言っていた。 ――俺が、あいつのことを初めて耳にしたのは、二次航海が始まってもうすぐ二年になろうかという頃だった。その頃の艦内に、二つの噂が流れたんだ。一つは、”黒尽くめの怪人”の噂。そしてもう一つは、俺と、あおいの噂だった……。 -------------------------------------------------------------------------------- 黒のリヴァイアス号艦内自治会長相葉昴治は、このところ多忙を極めていた。リヴァイアスは小さな閉鎖社会という特徴を持つ、そのために、各所で騒動が絶えたことがない。 これが、一次航海の頃からのメンバー同士なら、昴治が手を煩わせることもない。誰が暴走しようと、人体実験未遂事件が起ころうと、個人的な闘争が発生しようと、当事者たちが、或いは艦内に自然発生しているグループが大事になる前に抑えてしまう。 しかし、これが新規乗船メンバーになると、話は変わってくる。ヴァイアプロジェクトの中心に位置するリヴァイアスには、それなりに人の出入りというものがあり、それが面倒を起こせば、ことは昴治に降りかかってくるのだ。艦内には法務課というきちんとしたセクションもあるのだが、ちょっとした事件はまず自治会へ持ち込まれる。 そして、その自治会の最高責任者である昴治が、忙しさに文句を言いつつもそれを精力的に捌いていく。 「……え? 何? 不審人物が艦内を徘徊している? ……きぐるみ? ああ、それは不審でもなんでも……」 「人に跳ねられた? 違う? 暴走グイーン? ……両方? わかりました、警告を出しておきます!」 「また不審人物? あ、またってのはこっちの……。はぁ? 死神? なんだよ、その黒尽くめって……!」 昴治自身、能力が無いというわけではない。調整能力にはそれなり以上のものがある。だがしかし、人間の能力には、当然限界というものがあるわけで、このところ昴治が自室へと戻れる時間は、艦内時間で日付が変わる頃になることも珍しくなかった。 「……まったく、なんなんだよ、もう。みんな俺を便利屋だとでも思ってるんじゃないのか? 何から何まで押しつけて……」 自室へ帰る足取りも重く、顔には疲労の色がにじみ出ている。実際、先月には一度過労で倒れて、医務室のお世話になっているのだ。倒れている間に仕事がたまって、その後更に地獄を見たのだが。 そして、その時には幼なじみ兼恋人の蓬仙あおいに、健康に気をつけろというところから始まって、なかなか会えない、デートもできない、と説教だか愚痴だかわからないことを延々と効かされた。 また涙目で説教されるのは御免だし、医務室によって疲れに効くようなものでも処方してもらおうか、などと昴治は思った。幸い、医務室向かうには、自室への道を少し外れるだけでいい。思い立ったが吉日とばかりに、昴治は医務室へと足を向けた。 「すいませーん……」 「……相葉兄か? 怪我の治療なら面倒だから御免だぞ」 そこに、正確には、怪我人用のベッドの上にだらりと寝そべっていたのは、看護課の一人、天野翔だった。昴治は、何かと医務室を利用する回数が多いために、自然と看護課の人間には顔見知りが多い。翔とは、その中でも親しい間柄だった。 「相変わらずだなぁ」 だらけきった翔を見て、昴治は苦笑いを浮かべる。この天野翔という人物は、看護課としての能力はあるのだが、性格が勤勉とはほど遠い。暇さえあれば、こうしてナマケモノの様に身動きさえ嫌がってだらけている。 「今日は怪我とかじゃなくて……。ちょっと疲れが溜まってるから、何か薬でも出してもらえないかと思ってさ」 「……疲労回復には、休養が一番だ。薬で一時的に誤魔化しても、後で反動が来るだけだし体にはダメージが溜まる。昴治も、あんまり馬鹿正直に仕事してないで、俺を見習って、もう少し怠惰に生きたらどうだ?」 「……そうもいかなくてさ」 言って、昴治は曖昧な笑みを浮かべる。 処置無し、とばかりに、翔は溜息を付いた。しかし、昴治が身を削って働いているおかげでリヴァイアス内は僅かなりとも平穏さを保っているのだ。彼としては、あまり余計な薬など出したくなかったのだが、友人のため、何より自分の平穏のため、おっくうそうにベッドから起きあがり、医務室備え付けの冷蔵庫を開ける。 「ほら、これでも飲んでおけ。栄養剤だ。疲れはとれないかもしれないが、病気の予防には効くだろう」 「ありがとう」 翔の心遣いに感謝しつつ、昴治は瓶に入った栄養剤を一息に飲み干した。ほのかな甘みと、それを追いかけるような、えもいわれない苦みが喉の奥にわだかまる。 「まっじぃ……」 「良薬口に苦し、だ」 薬じゃないんじゃなかったのか? と一応心の中で突っ込んでおいて、昴治は瓶をゴミ箱へと直行させた。 「じゃ、俺はそろそろ帰るから……。栄養剤、ありがとうな。当直頑張ってくれ」 「……ああ、ちょっと待て」 「?」 扉の前まで行ったところで、昴治は振り返った。見れば、翔は妙な表情を浮かべている。言いたいことはあるが、何から言ったものか、という所だろう。 やがて、言いたいことがまとまったのか、翔はおもむろに口を開いた。 「なぁ、最近、ネーヤはどうしてる?」 「え? ……そういえば、あんまり出てこないな。忙しいから、気を遣ってくれてるのかもな」 昴治の返事に、翔は当てが外れたような表情を浮かべた。 「そうか……。それじゃ、話を変えよう。お前、最近蓬仙と会ってるか?」 ネーヤを前置きにしたのは、これを言いたかったからだろう。リヴァイアスの中枢、ヴァイアが実体化した姿、或いは分身とでも言うべきスフィクスのネーヤは、どういう訳か昴治に非常に懐いている。その甘えぶりに、蓬仙あおいが度々爆発していることは、昴治の友人ならば当たり前のように知っているのだ。 「いや……。あんまり、会えない。忙しくって休みもろくにとれないから……」 昴治も、流石に申し訳なさそうな表情を浮かべている。リヴァイアスの平和のためとはいえ、あおいに構ってやれないことが申し訳なくもあり、自分も不満なのだろう。 「よくないな、そういうのは。……知ってるか? お前と蓬仙が、喧嘩別れしたって噂がある」 「なんなんだよ、それ! そんなことしてないぞ!」 「ああ、わかってるわかってる。お前らみたいなおしどり夫婦はなかなかいないからな」 興奮しかけた昴治を、翔はなだめるように椅子に座らせた。 「しかしな、そういう噂が流れているのは事実だ。非道いのになると、他の男とデートしてた、ってものもある。……忙しいのはよくわかる。だけどな、それで人間関係を壊したりするのは本末転倒だ」 「……ああ」 「何より、体を壊されて、医務室へ運び込まれでもしたら、俺も困る。仕事を増やされちゃ、のんびり昼寝もできないからな」 全くの本音を語る口調で、翔はぬけぬけとそんなセリフを吐いた。不機嫌そうに歪んでいた昴治の表情が、思わず緩む。 数分後、昴治は幾分軽くなった足取りで医務室を後にした。途中で知り合いにも会ったが、挨拶する声も多少はましになっていた。 「やあ、昴治君じゃないか。お疲れさん」 「あ、祐一郎さん。お疲れさまです」 身の丈二メートル近い整備課の知り合いとすれ違い、昴治は部屋へと帰り着いた。そして、いつもあおいが作っておいてくれる食事を暖めなおして遅い夕食を済ませると、さっさとベッドに潜り込むのだった。 「(……今度、休みを取ってあおいを誘うかな……)」 -------------------------------------------------------------------------------- 流石に自分の態度を考え直した昴治だったが、状況はそれを許さなかった。突発的に発生したごたごた――新旧乗務員グループの反目、それに対する艦内最強の武闘派組織の介入など――があり、休むなどと言っていられなくなったのである。 一刻も早く休みを取るため、昴治はいつにも増して精力的に働いた。後の火種が残らないよう、必死の説得で反目の火種を消して回り、武闘派組織に対しては、そのトップに話を通して末端の先走りを防ぐ。 昴治の東奔西走の働きによって、その騒ぎ自体は規模に反比例して速やかに収束した。しかし、その最中、昴治は気になる噂を耳にした。 ”蓬仙あおいが、相葉昴治に愛想を尽かして、別の男に乗り換えた” 昴治本人は欠片も信じていなかったこの噂だが、予想以上に広がっているらしいことに愕然とする。仕事の合間に噂を聞くだけでも、相当な量の噂が流れていた。 曰く、 「蓬仙あおいが、非常に親密そうに昴治以外の男と話をしているのを見た」 曰く、 「人気のないブロックで深夜、蓬仙あおいと、明らかに昴治ではない男が二人連れでいるところを見た」 曰く、 「相手は操船課のSだ」 「違う。実は整備課のAだ。二人が一緒の所を見た、間違いない」 等々。 中には、彼の親友である尾瀬イクミが浮気相手だとか、弟の祐希がそうだ、などというまるで信用できないものもあったが、ここまで来ると、流石に昴治も不審感を持たざるを得なかった。あおいに限ってまさか、とは思うのだが、噂の広がり方が尋常ではない。 昴治は、噂を完全に払拭する必要性を感じた。実害があるわけではないが、精神衛生上、このままの状態では非常によろしくない。 「(……ったく、なんなんだよ、もう)」 口に出さずに、昔よく呟いていたセリフを思い浮かべながら、昴治はその日、あおいの居るはずの場所へと向かった。予定では、あおいは今日は食堂、厨房内で仕事をしているはずだった。 昼時のリヴァイアスの食堂では、(おそらく)太陽系共通であろう光景が繰り広げられていた。食を求めてカウンターに行列が作られ、一方では食事を確保したは良いが、手近のテーブルに空きが無く、所在なげにうろうろしている者もいる。 そんな中、昴治は真っ直ぐ厨房へ向かおうとしたのだが、流石にこの光景を前にして考え直した。おそらく、今頃厨房内はさながら戦場のごとくであろうし、そこに声をかけてもあおいが出てこられるとは思えない。それ以上に、そんなことをしたら、腹を空かせた行列している人々から、さぞや強烈な反応が返ってくるだろう。食い物の恨みは怖いのだ。 「一度、出直そうか……」 「――昴治君!」 きびすを返しかけた昴治だったが、突然の背後からの声に、首を巡らせてそちらに視線を向けた。テーブルの一角で周りより確実に一回り以上大きな人影が、こちらに向けて手を振っている。 「祐一郎さん」 その大男は、昴治の知人の一人、整備課の相原祐一郎だった。昴治より二つ三つ年上の彼は、二メートルに迫る長身に、がっしりした体つきをしており、それでいて顔には意外と愛嬌がある。元々二人は直接の知り合いではなく、間に翔と御原綾を挟んだ関係だった。しかし、世話好きな祐一郎が何度か昴治を手伝うようなことがあり、今ではそれなりに親しくなっている。 呼ばれたからには無視するつもりもなく、昴治は人混みをぬってそちらへと向かう。 「あれ? その包帯……?」 ふと、祐一郎の腕に、まだ真新しい包帯が見える。 「あ、これは気にしないでいいよ。作業中にちょっと、ね。大したことじゃない」 固く、分厚く巻かれた包帯の下に血が滲んで見えるというのは、それなりのものだと思うのだが、本人は涼しい顔だ。昴治は、とりあえず気にしないことにした。 辿り着いてみると、そこには祐一郎一人ではなく、翔と綾がテーブルに同席していた。食事の済んだ後なのか、綾はいつものごとく姿勢も美しく優雅に湯飲みを啜り、翔はまたいつものごとく、テーブルの上にだらけきった上半身を広げてだれていた。 「よう」 「……こんにちは、相葉さん」 「翔、御原、こんにちは」 翔と綾の二人は、一目ではそうとは判らないが、実はリヴァイアスの名物カップルの一組である。一方的に惚れ込んだ綾が、怠惰の見本のような翔に尽くしているだけのようにも見えるが、実はぴったり息が合っていることは知人ならば知っている。 「……お前ものんびりする気になったのか、いや結構結構」 顔を上げるのもおっくうだと言いたいのか、俯いたままくぐもった声で翔が何事が言っている。 「ちょっと、あおいに会おうと思ってさ。でも、これじゃ無理みたいだな」 苦笑しつつ、昴治は厨房を眺めやる。 そのために、昴治は綾と祐一郎の表情が変わったことに気付かなかった。 「……噂のことか?」 ここになって、翔はようやく顔を上げた。彼のセリフに綾も祐一郎も渋い表情をしている。どうやら、二人とも艦内を流れている噂を耳にしているらしい。 「それもあるけど」 苦笑いを浮かべて、昴治は厨房から目を逸らす。カウンターで忙しそうに客を捌いているあおいの姿が、ちらりと見えた。 「なら、はっきりさせた方がいいな。悩みによるストレスってのは、たちが悪い。さっさと話して、安心して来るんだな。……でなけりゃ、噂の当事者に話を聞くか?」 「え? なんのことだよ?」 「ほれ、祐一郎。お前も、そのつもりがあって呼んだんじゃないのか?」 翔は、突然話を横に振る。振られた祐一郎は、少し決まりが悪そうな表情をしていた。 「翔さん、そんな、いきなり……」 「いや、いいんだよ、綾ちゃん」 綾がたしなめるような声を上げたが、祐一郎はそれを遮った。そして改めて、昴治に顔を向ける。 「祐一郎さん……?」 「あー、じつはだね、昴治君。あおいちゃんの噂なんだが……、その相手は、多分俺だ」 「!?」 意表を突かれたのか、昴治の表情が凍り付く。しかし、これは当然の反応と言えるだろう。それを見た祐一郎は、もう一度苦笑して話を続けた。 「実は、噂が広がるちょっと前に、あおいちゃんに用があって、何度か二人で会ったことがあるんだ。……色っぽい話じゃないぞ? 君にも何度かご馳走したことがあるんだから、俺の趣味は、知ってるだろう?」 祐一郎の趣味とは、その巨体に似合わず、なんと料理なのである。昴治は、まだ立ち直りきっていないようだが、とにかく頷いた。 「それでまあ、厨房が空いた後に、実験作のために場所を借りてたりしたんだけど、その時にあおいちゃんとレシピの交換をしたことがあってね。おそらく、その時のことを見ていた誰かが、勘違いした噂を流したんだと思うんだけど……。昴治君とあおいちゃんには、悪いことをしたね。」 テーブルの上に両手をついて、祐一郎は、深々と頭を下げた。年下相手にも筋目を通すこの性格は彼の美点の一つなのだが、今の昴治では、そんなことをされても慌ててしまうだけだった。 「え、いや、あの! そういうことなら、謝ったりしないでくださいよ! ただの勘違いした噂なんだし、俺が忙しいからってあおいに構わなかったのも悪いんだし……。な、なんだよ! 翔も御原も、笑ったりして!」 頭を下げたままの祐一郎、慌てる昴治、それを安心した、という笑顔で眺める翔と綾。噂の出所は不明なままであったが、昴治の不安は、綺麗に消えていた。 ――この時は。 (後編に続く) -------------------------------------------------------------------------------- すぴんねっと > 不意〜に♪ 君が口ずさむ♪・・・すみません、何となく歌いたくなったんです(^^;) (2000/10/09(Mon) 13:39:08) 長安 > よかったね。S氏。うわさとはいえ、あおいの相手になれて。 (2000/10/09(Mon) 19:20:15) ほろほろ > 「その相手は、多分俺だ」…衝撃の告白(bang)とゆ−のも読んでみたいなぁ。^^; (2000/10/10(Tue) 00:35:07) たのじ > >すぴんねっとさん:……ちょいと反応に困りました(苦笑) どのシーンの挿入歌でしょう?(笑) >長安さん:決して、長安くんのことを忘れていたわけでは……(笑) >ほろほろさん:そして、昴治とあおいの取り合いをしろと? 流石にそれは(笑) (2000/10/10(Tue) 06:33:38) すぴんねっと > いえ、挿入歌じゃなくてOPです(^^;) (2000/10/10(Tue) 12:28:54) |