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His anxiety(後編) 改めまして、後編スタート! ***************************** 「ブギーポップ? ……なんだよ、それ。そんな格好して、何やってんだよ、あおい!」 「少し落ち着いた方がいいな、君は」 あおいは、肩をすくめて左右非対称な苦笑いを浮かべると、手近な観客席の背にもたれかかった。 「僕は今忙しいのだが、少し位の時間はある。説明しておこう――。僕は、蓬仙あおいという人物に浮かび上がった、泡のようなものだ。正確な例えではないが……、概念としては、二重人格と言えばわかりやすいだろう」 「二重人格?」 「そう。特定の条件に反応して、自動的に浮かび上がる不気味で不確定な存在。だから、僕は”不気味な泡(ブギーポップ)”と名乗っている」 あおい(本人曰く、ブギーポップ)の奇行、そして二重人格という唐突な告白に、ただでさえ疲労の為に細くなっている昴治の精神は、大きく揺さぶられた。そのような精神状態では、正常な判断など望むべくもない。彼は更に混乱した。 しかし、僅かに残った冷静な部分が、”二重人格”という可能性もあるかもしれない、と考えていた。昴治自身、精神医学に関する知識はないが、そのあまりにポピュラーな単語はよく知っていた。今ここに、看護下のリィド・インフィニティでもいれば、長々と説明をぶってくれたかもしれないが。 自分を”僕”と呼び、昴治を”君”と呼ぶ。このようなどこか時代がかった話し方など、あおいは決してしなかった。何より、その雰囲気がまるで違うのだ。二人は付き合いの長い幼なじみであり、今ではリヴァイアス艦内公認のおしどり夫婦である。その違いに気付かないはずがない。 ”自動的”だの、”ブギーポップ”だの、何かの妄想としか思えない物言いも、それで説明ができる。 「とはいえ、正しく二重人格というわけではない。僕と蓬仙あおいは、完全に別の人格だ。僕は蓬仙あおいの心の内を知りはしないし、蓬仙あおいは、そもそも僕のことを知らない。だから、精神科医に見せても無駄だよ。逆に、君の方が妄想に取り付かれる、と思われかねないな」 顔の右側だけに浮かべた皮肉げな笑い顔も、あおいの顔にはとても似合わないものだった。 「じゃあ、どうしろっていうんだ! どうすれば、あおいは元に戻るんだよ!?」 「……その表現は正しくない。”元に戻る”以前に、蓬仙あおいという人格そのものは、全く変化していないんだ。たまたま僕が蓬仙あおいに浮かび上がってきて、こうして少し間借りさせてもらっているだけなのさ。君は、時間が経って、そのうち僕が消えるのを待てばいい」 「いつだよ、それは!?」 あおい=ブギーポップは、至極真面目な表情を浮かべ、昴治を真っ直ぐに見つめて、きっぱりと言った。 「僕が浮かび上がる原因となったもの――、”世界の危機”が無くなるまでさ」 今度こそ、昴治は確信した。 「(……最近、構ってやれなかったのがそんなに不満だったのか?)」 とになく、何かが原因で、あおいは妙な妄想に取り付かれているのだ。そういえば、ヴァイア艦に乗っている人間には、ヴァイアからのフィードバックで、まれに精神に異常をきたすことがあるあるって言うし――。きっと、そうに違いない。 そのヴァイアであるネーヤとリンクしている当人だということは綺麗に忘れて理論武装を固めると、昴治はあおい=ブギーポップを取り押さえるべく観客席へと向かった。穴だらけの理論武装ではあるが、昴治の主観では、それが正しいことなのだ。 しかし、その昴治がブギーポップの元に辿り着く前に、その当人はもたれかかっていた椅子から離れた。そして、闇の向こうのあらぬ方を見やる。昴治は、観客席とトラックの壁を乗り越えるのに手間取っていて、その様子が見えていない。 そして、ようやく昴治が壁の上に上半身を持ち上げたとき、その上を、黒い人影がマントを翻して通り過ぎていった。 「……え?」 一瞬、昴治にはそれが何であるのかわからなかった。それも当然だろう。普通の人間は、助走も無しで横に五メートルも飛ぶことは出来ないし、同様に、高さ十メートルの所から飛び降りて、平気で立っていることなど出来るものではない。 壁にぶら下がったまま呆然とする昴治の背に向けて、やはり背中を向けたままのブギーポップは言った。 「お喋りはお終いだ。どうやら、思ったより時間が無かったらしい。君は、早くここから出ていきたまえ。ここは、危険だ」 「な、何なんだよ!」 まだ壁にぶら下がったままで、昴治が叫ぶ。それに対する、ブギーポップの答えは、決然とした、宣言するようなものだった。 「言っただろう? 僕が浮かび上がってきた理由――、”世界の危機となるもの”がここに来るのさ」 そしてそれに答えるように、闇の向こうから、何かが飛び出してきた。それも、一つ二つではない。軽い車輪の音を響かせながら、しかし重量感を持ってしまってくるそれらは――。 「グィーン!?」 「あぶり出されてきたか。……”イマジネーター”」 ブギーポップは、もはや昴治など眼中にない様子でグィーンの群の、その奥を見る。そこに、彼女(彼?)の目的となる何か、或いは誰かがいるというかのように。背後の昴治には、今、ブギーポップがどんな表情を浮かべているのかわからなかった。 と、無秩序に周囲を動き回っていたグィーンの群が、突如として整然とした動きを見せ始めた。そいつらは、一斉に輪の中心、ブギーポップに向かって動き出す。一直線に加速する動きから、その狙いは明らかだ。 ――あおいに、体当たりをかけようとしているんだ! 「避けろっ、あおいっ!」 蒼白になって昴治は叫んだ。あおいを助けにいこうにも、彼が彼女に辿り着くよりも、グィーンが襲いかかる方が早い。彼女も運動神経が悪い方ではないが、この数では、全てを避けきれるとは思えない。これだけの数のグィーンの体当たりを喰らったらどうなるか、考えるのも恐ろしい。 「(ちくしょうっ! なんでグィーンが!? プログラムの暴走かよっ!?)」 必死になって、短い距離を昴治は走る。しかし、その短い距離を走る間にも、グィーンがあおいに襲いかかろうとしている。一瞬の後に怒るだろう惨劇を予感して、昴治は思わず目を閉じた。 しかし。 「――えっ!?」 一つ凄まじい”金属同士”が激突する音が聞こえたかと思うと、その音は次々と連鎖した。おそるおそる目を開けると、そこには不思議な光景が展開されていた。 グィーンの群が、次々にブギーポップに襲いかかっている構図は変わらない。ところが、グィーンは、一つたりともあおいの周囲三メートルに近づけないのだ。あおいがマントの外に出した手を僅かに動かす度に、近づいたグィーンは跳ね飛ばされるように方向を変える。それは、まるで、調教師が獣の群を思うままに操っているかのように見えた。グィーンという機械の獣が、ブギーポップの腕の一振りに答えて、周囲をはね回る。 「(なんだ、なんなんだよ、あれ?)」 さっぱりタネのわからない昴治は、その光景を前に困惑するばかりだった。ネーヤのように、重力制御でもしているのか、などと考えてしまう。 神麻薫やエアーズ・ブルー程に場慣れした人間ならば、ブギーポップがやっていることの仕掛けくらいは見抜けたかもしれない。ブラッド・インフィニティのような怪物ならば、全てを見抜くこともできただろう。彼(彼女?)は、その右手で、極細のワイヤーを振るっていたのだ。しかし、それはあくまでワイヤーであり、グィーンを跳ね飛ばしたりすることなど、普通、出来ない。一体、どのような技が、それを可能にしているのだろうか? 「……らちが明かないな」 ブギーポップがぽつりと呟いた。その右手は、相変わらず細かく動いて一瞬たりとも止まらない。今ではもう、調教師というよりも、指揮者の動きだった。 「”彼”を待つつもりだったが……。仕方がない、少し苦労するが、一人でやるとしよう」 右手を大きく一振りすると、ブギーポップは駆けだした。グィーンの群もそれを追跡する素振りを見せたが、本の一瞬のタイムラグを置いて、まるで爆圧に飛ばされるかのように、四方へと凄まじい勢いで吹き飛んでいく。これも、ブギーポップの技なのだろう。 ブギーポップ本人は、立ちふさがる障害物を全て排除し、奥の闇へと進んでいく。その足取りには、ためらいも何もない。 しかし、その時後方で、何か鈍い音と呻き声が聞こえた。ブギーポップは一瞬眉をひそめたが、何でもなかったように再び足を早める。 ――そして、つい先程までグィーンが走り回っていたその空間には、吹き飛ばされて機能停止した無数のグィーンと、飛んでくるその内の一体を避け損ね、直撃を喰らって気絶した昴治が、グィーンを抱きしめるような格好で横たわっていた。 -------------------------------------------------------------------------------- 「……じ! こうじってば! 目が覚めたの!? どこか痛くない!?」 「……なんなんだよ、朝っぱらから騒いで……」 あおいに起こされて目を覚ます、それは昴治にとって珍しくもない、日常のことだった。 「はいはーい、あおいちゃん、心配なのはわかるけど、まずは検査ね? はい、昴ちゃん、頭がふらふらしない? 吐き気があったりしない?」 「神麻……?」 しかし、よくよく見れば、そこは見慣れた昴治の私室ではなかった。見慣れた私室ではないが、二番目くらいには見慣れているかもしれない、医務室だったのだ。傍らでは、神麻薫がクリップボード片手に問診を始めている。更にその背後では、あおいが半分泣いて、半分笑っているという実に複雑な表情を見せていた。 「あれ、俺、なんで……?」 「簡単に説明すると、君は、仕事帰りに倒れて、そのまま一週間と三日ほど意識不明で寝込んでたの。発見してくれたゆういっちゃんには感謝しとこうね?」 「もう、全然目を覚まさなくって、心配したんだから……! だから、あんなに無理しないでって言ったじゃない!」 薫の頭越しにあおいが叫んでいる。ようやく目を覚ました頭で薫の説明を理解しようと務めると、ようやく状況がわかってきた。 記憶の最後で、昴治は吹き飛んできたグィーンの直撃を受け、あっさりと気絶してしまった。どうやら、そこを通りがかった相原祐一郎に拾われたらしい。そのまま一週間寝込んでいた、ということには流石に驚いたが。 それにしても、と昴治は思う。今、そこで安心した表情を浮かべながら、それでも小言を言っているあおいに”ブギーポップ”などという二重人格が出てくるとは。あの時どこかへ行ってしまった、あおいとはまるで中身の違うブギーポップは、昴治のことなどお構いなしだったようだ。 気付いたからには、手遅れにならない内に何とかしなければならない。自分の体も気になるけれど、ここはまず、あおいの方を何とかしなければならないだろう。何と言っても、自分の恋人のことなのだ。あんな不気味な人格に取り付かれている姿は、正直言って見たくない。 「なあ、あお……」 「あ、そうだ! 祐希と尾瀬にも教えてあげなくちゃ! 二人とも、昴治のことずっと心配してくれてたんだから!」 さんざん小言を続けていたあおいだったが、昴治が何事か言う間も与えず、それだけ言い残すと医務室を飛び出して行った。やはり、こういうとっさの行動力では昴治はあおいに敵わない。 「はあ……」 タイミングを外された昴治は、どうしたものかと深い溜息を付いた。 「どうしたの?」 「あ、いえ、ちょっと……」 それを聞きとがめたのか、昴治のベッドから離れて、診察机でカルテを書いていた薫が椅子の上で体ごと振り向いた。その日本人形のように整った顔には、いつものように屈託のない笑顔が浮かんでいる。 得意の曖昧な笑顔でそれに答えようとした昴治だったが、薫の顔を見直した瞬間、違和感に沈黙してしまった。 ――見たこと無い表情……。でも、見たことがある? 薫は、顔の右側だけで皮肉っぽい笑みを浮かべているという、左右非対称な表情をしていた。 「――蓬仙あおいのことならば、もう心配はいらない」 「え!?」 「もう、蓬仙あおいに、僕が浮かび上がることはない。”世界の危機”は去った。君が眠っている間に、事態は全て終わったんだよ、相葉昴治君」 「な、な……!」 その口調、その表情。何よりも、訳の分からないその話の内容。あの時に見た黒帽子に黒マントの人物のイメージが、突然薫に重なった。 「なんで……! 何なんだよ、お前!」 あれは、あおいの二重人格だったはず――、昴治は混乱した頭で考えた。しかし、目の前の薫は、あの時あの場所にいたあいつでなければ知らないはずのことを口にしている。 「結論だけもう一度言おう。全ては終わった。蓬仙あおいも、僕とは無関係になった。相葉昴治君、君は僕のことなど忘れて、元の生活に戻ればいい。――ああ、彼女を医者に見せても、何もわからないよ。彼女自身は、至って正常だ。”二重人格”という比喩も、わかりやすいから使っただけであって、本質とはまるでかけ離れているんだからね」 抽象的で要領を得ない答えに、昴治はますます混乱する自分を感じた。色々と理不尽な体験に満ちた人生を送ってきた気がするけれども、これはその中でも一二を争う。二人の、面識があるとはいえ全くの別人から、全く同じ口調で同じような話を聞かされるとは。 「……一体、誰なんだ、お前?」 左右非対称な表情で自分を見ているそれに、昴治はようやくそれだけ言った。そしてその問いに、ブギーポップは一言だけ答えた。 「僕が誰なのか、君はもう、知っているはずだ」 韜晦するかのようなその一言に、昴治はそれ以上何も言えなかった。 やがて、医務室の外に人の気配が近づいてくる。 「……どうしたの、昴ちゃん? やっぱり、調子悪い?」 「あ、いや! 何でもないんだ、何でも……」 心配そうな薫の質問に、昴治は曖昧な笑みで答えた。 そして、扉が開くと、あおいを先頭に、心配そうな表情を浮かべた友人達が雪崩をうって医務室に入り込んできた。 「こらーっ! みんな、医務室では静かにっ!」 薫の声を聞きながら、昴治は、自分がどうにか日常に戻ってきたらしい、と感じていた。 Boogiepop Re-float "His anxiety" closed. ***************************** 何というか……。 「リヴァイアス」だか「ブギーポップ」だか、というお話でした。 このHPの趣旨に合っていれば良いんですけど(苦笑) 皆さん、どしどし突っ込みお願いしますね。 -------------------------------------------------------------------------------- ま〜き〜(批判家) > うまいっす!さすが師匠の師匠(笑)ラブ専の師匠さまはやっぱりラブ使いとは(笑) (2000/10/09(Mon) 00:31:53) 鳥乃 > 宇宙のブギーポップ…200年後にも現れるのか…(爆) 昴治はいつも災難ですな…(笑) (2000/10/09(Mon) 01:36:23) ぐちゃ > 昴治より二つ三つ上ってことは、一次航海時は最年長じゃないのかなあ? (2000/10/09(Mon) 12:48:30) すぴんねっと > 正体はやはりスフィクスなのだろーか?・・・昴治より三つ上? わ〜い、スピンよりも年上が現れた〜♪(笑) (2000/10/09(Mon) 13:44:26) むげにん > 楽しませていただきました。ところで某機動戦艦系のページでたのじさんと高原ユウさんのお名前をお見かけしたような気が…… (2000/10/09(Mon) 15:00:48) 高原ユウ > うわ、バレた!?(爆笑) (2000/10/09(Mon) 16:30:21) 高原ユウ > それはともかく、お待たせして申し訳ありませんでした。……祐一郎は、昴治の1〜2歳ぐらい年上でしたっけ? 再乗船時に、19〜20歳ちょい前ぐらいですから。 (2000/10/09(Mon) 16:34:23) 長安 > どんな世界の危機だったんだろ? (2000/10/09(Mon) 19:19:27) ワイルドキャット > 細胞がか〜ならずきっと……そういえばグウさんとこで『猫』ブギー(もどき)を書いたことがあったなあ。 (2000/10/09(Mon) 21:38:18) ほろほろ > なんつ−か、上手いですね。…巧みといったほうが近いかな。 (2000/10/10(Tue) 00:36:03) ひじり > イマジネーターもいるのか……統○機構もまだ健在!?(笑) (2000/10/10(Tue) 04:26:08) たのじ > >ま〜き〜さん:自分で言うのも何ですが……。一体、これのどこにラブが?(苦笑) >鳥乃さん:それはもう、ブギーポップですから、「世界」がある限り産まれて来るんです。なんせ、まだ「虚空牙」の襲来前ですし(笑)<わからなかったらすいません。 >ぐちゃさん:一応、最年長クラスのつもりで作りました。「世話好きなお兄さん」ってとこですかね。 >すぴんねっとさん:ブギーポップは、あくまでブギーポップです(謎) まあ、ネーヤと絡ませるのも面白いかな……。 >むげんにんさん:はぅっ! 最近そっちをさぼっている……(苦笑) (2000/10/10(Tue) 06:46:57) たのじ > >高原さん:年齢は、「その位」としか決めてませんでしたね(苦笑) まあせっかくだから、「スピンよりも上」にしときますか? >長安さん:それは、またの機会と言うことで……(笑) >ワイルドキャットさん:『猫』ブギー……。それも面白いかも。とりあえず、今回は「あおいブギー」と「薫ブギー」でした(笑) >ほろほろさん:ども、ありがとうございました_(__)_ >ひじりさん:やっぱりそのへんもまたの機会……(苦笑) プロットを文章にする時間が、早くとれるといいなぁ。 (2000/10/10(Tue) 06:51:09) バルス > ジャンクや探偵モードと対決させたい。 (2000/10/11(Wed) 12:35:07) たのじ > >バルスさん:対決・・・? ジャンクやブルー、薫と格闘したら、まちがいなく負けると思いますが。 >管理人さん:それから、書くのをすぱっと忘れていましたが、これは転載オッケーです。 (2000/10/13(Fri) 12:57:28) たのじ > >バルスさん:あ、対決というのは、「BP」とということですか? 別のキャラと間違えてました(苦笑) (2000/10/13(Fri) 12:58:57) |