始まりの終わり:side Miyako

「ただいま帰りました。」
「おお、美耶子。調度良かった。」
「お父様?」
ある日美耶子が家に帰ってくると珍しい事にいつも仕事で忙しい父、明史がいた。
「ちょっとこっちに来て座りなさい。」
「あ、はい。お父様。」
怒っている様子が無いことを確認しつつ美耶子は座敷の机の前に正座した。
「何でしょうか。」
「……実はな、お前に縁談の話が来ておってな。」
「縁談、ですか?」
美耶子は少し驚いた。
いつかはそう言う話もあるだろうとは思っていたがミドルスクールも卒業しないうちにやってくるとは思わなかった。
「それで、相手はどのような?」
「うむ……長安(仮)財閥の御曹司だ。」
「あの長安(仮)財閥ですか!?」
美耶子は今度こそ心底驚いた。
何しろ藤本家と長安(仮)家は昔から犬猿の仲なのである。
「うむ。あの以前から何かと姑息な策略をしかけてくる長安(仮)家だ。」
ちなみに現当主同士も相当仲が悪い。
「実はな、向こうの方から和議を申し入れてきてな。向こうも跡取りの問題でごたごたしているらしいからその辺の事情もあるのかもしれんが……。まあ争ってばかりいるのも能が無いので受ける事にしたのだがそこで……。」
「血縁関係を結ぶことにしたというわけですか。」
「うむ。」
要するに政略結婚である。
まあ予想された話なので美耶子は別に驚かなかった。
「ですが私はまだ……。」
「分かっておる。お前も相手もまだ15。結婚には早すぎる。だからまずは婚約、と言う形になる。」
「……それで、相手は。」
「うむ。長男の眞一だ。お前と同い年らしい。」
そう言って明史は写真を美耶子に渡した。
「……。」
「とにかく今度の日曜日に料亭で会う事になったからそのつもりでな。」
「はい。お父様。」

自分の部屋に戻った美耶子は写真を眺めてみた。
そこには少し不機嫌そうな顔をしている少年の姿が写っていた。
(……なんかひねくれ者って感じだな。まあお家騒動の当事者だもんね。性格ゆがんで当然かなあ。)
なんて事を考えてると。
「お姉ちゃ〜ん。」
弟の和己が部屋に入ってきた。
「和己。」
「お姉ちゃん。お嫁に行っちゃうって本当?」
「え。うーん、まあそうなるの……かな。」
美耶子がそう言うと和己は取りすがって泣き始めた。
「ちょっと和己。」
「えぐっ、行っちゃ、行っちゃやだよ。」
「……大丈夫だよ。まだはっきりと決まったわけじゃないし。それに行くとしてもまだずーっと先の話だし。」
「ぐすっ……本当?」
「本当だって。……だから泣かないで良いんだよ。」
「……うん。」
美耶子は和己の頭をそっとなでてやった。

当日……
「……来ませんね。」
「うーむ。」
日本料亭にやってきた二人は待ちぼうけを食っていた。
「まったく。折角来てやったと言うのにあの男は……約束を守ると言う事を知らんのか?」
「……。」
いつもは冷静で毅然とした態度の明史であったが長安(仮)家がらみとなると妙に感情的になる。
(これじゃ婚約しても結婚する前に破談になるんじゃないかしら。)
なんて事を美耶子が思っていると。
「藤本様。」
すっと障子が開いて仲居さんが顔をだした。
「なんだ。やっと来たのか。」
「いえ、お電話です。」
「……分かった。美耶子、ちょっと待っていてくれ。」
「はい。」
明史はそう言って部屋を出ていったがしばらくすると複雑な表情をして戻ってきた。
「……お父様?」
「見合いは中止だ。」
「は?」
「なんでも見合い相手の眞一が失踪したそうだ。まあ、命まで狙われていたと言う話だからな。いつかはこう言うことになるんじゃないかとは思っていたが……。」
「では、縁組の話は無しですか?」
「いや。また後日次男の眞治と見合いをしたい、と言ってきた。」
「はあ。」
「とにかく今日は帰るぞ。」
「はい。」

後日……
「いやあ一時はどうなるかと。」
「まったくですなあ。しかし家庭内の事ぐらいしっかり把握しておかないといかんのではないですかな?」
「いやあお恥ずかしい。やはり家のような“大金持ち”ともなると色々と問題が出てきてしまうのでしょうなあ。」
「はっはっは。まったく。」
会うなりいやみの交し合いを始めた父たちを尻目に美耶子は見合い相手を見つめた。
第一印象は最悪だった。
特におどおどしてるくせにどこか人を見下したところがほの見えるのが美耶子をいらだたせた。
「あ、あの。美耶子さんのご趣味はなんでしょうか。」
「お琴と日本舞踊を少々……。眞治さんは?」
「え、ええ。ど、読書でしょうか。」
嘘ではない。嘘ではないが、かといって完全に本当と言うわけでもない。
(格闘技全般。とか言ったらどんな顔するかな……。)
なんて事を思ったが表には出さず美耶子はにこやかに応対した。
しばらくして……。
「……まあ話はこれくらいにしてしばらく二人きりにしましょうか。」
「そうですな。そうしましょう。」
セオリー通りに二人は出ていった。
二人きりになったとたん会話が途絶えた。
気まずい沈黙が辺りを包む。
「ええっと……。そうだ。庭でも散歩しませんか?」
「それもいいかも知れませんね。」
庭に出てから眞治は少し舞い上がってぺちゃくちゃと喋り続けた。
美耶子は表面上はにこやかに応対していたが、内面ではいらつきが限界に近づいていた。
そもそも最初からして問題だったのだ。
見合いをすっぽかして逃げ出した眞一。
別に彼に対して何の感情も抱いてはいないのだがそれでもどこか馬鹿にされたような不快感を感じずにはいられなかった。
そして眞治。
さっきから話している内容は第一印象の正しさを証明していた。
話すのは自分の話、それも自慢話ばかり
美耶子は怒鳴り散らしたくなるのを必至でこらえていた。
(……眞一がどんな奴かは知らないけど、こいつよりはましよね、絶対。まったく、内容も無いことを良くこんなに喋られるわね。こいつ。まあ馬鹿の方が後ろでコントロールしやすいかもしれないけど。そんなことしてもつまらないな。はあ……あたしなんでこんな事してんだろ。なんか腹が立ってきたな。……そうね。どうせ婚約しても結婚前におじゃんになるに決まってるんだし。だったら今破談にしても同じ事。よし!)
ついに見合いを台無しにする事を決意した美耶子がどうやって上手く断られる方向に持っていこうか考えていると。
「美耶子さん!」
「あ、はい。」
見ると眞治が美耶子の方を真正面から見詰めていた。
その表情からはおどおどした所が消えていた。
どうもさっきから美耶子が(適当に)にこやかに答えていたので脈ありとでも勘違いしたようだ。
「どうやら結婚しても上手くやっていけそうですね。」
「え?」
どこが?という言葉を美耶子は必至で押さえた。
(……遅かったかな。)
「美耶子さん!」
「きゃ……。」
眞治はいきなり美耶子の肩をつかんだ。そうしてゆっくりと顔を近づけて(眞治の方が背が低いんで下から)行った。
(はあ……。)
美耶子は心の中でため息をついた。やはり遅かったらしい。
(まあ、しょうがないよね。他に選択肢なんて無いし。)
美耶子は、覚悟を決めた。
(良いよね、ここまでずっと我慢してきたんだし。“少しぐらいやっちゃっても”。)

数瞬後
「うぎゃああああああああああああっ!!」
悲鳴が辺りに響き渡った。
「ど、どうした!何があった?」
慌てて現場にやってきた明史達が見たものは肩を押さえて地面をのた打ち回る眞治とその側に佇む美耶子の姿だった。
眞治の左肩はプランと力無く垂れ下がっている。……どうやら間接が外れているらしい。
「こ、これは一体。」
「美耶子!?」
「すみません。」
美耶子はすまなそうに軽く微笑んだ。
「足を滑らせてしまって、それで眞治さんの手を取ったら“偶然”間接が決まってしまったらしくて……。」
そう言って美耶子はまた微笑んだ。
氷の様に冷たい微笑だった。
「そ、そうか……。」
そんなことが起こるか!……と突っ込める者は誰一人としていない。当然である。誰もが美耶子の微笑みに圧倒されていたのだ。と、一人の少女がすっと眞治に近づいて行った。そして、外れてる方の腕をひょい、とつかんだ。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!!
「へえ。奇麗に外れてるじゃない。」
千里!なんでここに。」
香椎千里。眞一や眞治の従姉である。
「どんな人と見合いするのか気になって気に来たの。それにしても……中々やるわね、あなた。」
そう言って千里は美耶子に近づいて来た。
「眞治はお気に召さなかったみたいだけど……あたしなんかどう?最近は女同士ってのも珍しくないでしょ。」
そう言って千里は美耶子の頬に手をそっとやった。
美耶子は千里の方を向いて微笑むとその手をとり、そして軽くひねった……ように見えた。
その瞬間千里の体が半回転していた。
(やばっ!!)
慌てて千里はかろうじて地面に残っている右足を蹴って回転方向にそのまま一回転した。
「くっ!」
無様に背中から倒れこむことは避けられたものの四つん這いの状態になってしまった千里は軽く舌打ちした。」
「このあたしを地面に這いつくばらせるなんて……やっぱりやるわねますます気に入った……。」
既に美耶子は千里の方を向いていなかった。
「お父様。」
「……何だ?」
「私、急用を思い出しました。先に帰ってもよろしいでしょうか?眞治さんがこの様子では見合いは続けられなさそうなので。」
にっこり。
「う、うむ。良いだろう。」
「ありがとうございます。」
美耶子は一礼して、またあの氷のような微笑を浮かべるとその場を立ち去った。
「私が気おされるとは……。聞き分けの良い子だと思っていたら中々どうして気性の激しいところもあるのだな。」
明史は少し楽しそうに呟いた。
「破談……ですかな。」
眞乃介がそう呟いた。
「破談……ですな。」
二人はふふふと笑った。
怖い笑い方だった。
「それでは他の色々な話も無し、と言うことで。」
「ああそうですな。」
「それではまた。また会う機会が“あれば”。」
「はっはっは。貴方も“家庭の問題”を早く解決するよう心から祈っていますよ。」
「はっはっは。」
「ふっふっふ。」
二人の後ろで双方の秘書がはあ、とため息をついた。
それが会えば嫌味の応酬ばかりしている二人にあきれての事なのかそれともようやくこの胃に穴があきそうな状況から開放される事への安堵からなのかそれは本人にしか分からない事であった。
「そのつれない態度も中々……。」


後日談

「お姉ちゃん。結婚は無しになったんだね。」
「うん。」
「良かった。これでお姉ちゃんとずーっと一緒にいられるね。」
「和己……そう……だね。」
母の雅が仕事で忙しいため美耶子はいつも和己の母親代わりだった。
美耶子は和己が可愛かったし、和己は美耶子に良くなついていた。
だけど、少し甘やかし過ぎたのかも知れない。
美耶子はそう思った。
今回は破談になったがいつかはそう言う日が来るのだ。
(少し、家から離れてみるべきなのかも知れない。和己にとっても。そしてあたしにとってもそうしたほうが……。)
美耶子は机の上においてある書類を見つめた。
そこには……。

END
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えーっと。
美耶子さん視点で書いてみました。
なんか……怖いですね美耶子さん
本気で怒らせて間接はずされないように注意しましょう(笑)
ところで美耶子さんはあの事件の経験でかなり変わってますね。
以前は押さえ込んでいた感情をもっと素直に出すようになってます。
出し過ぎてるような気もしないでもないけど(笑)



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ワイルドキャット > 本名が分からないのでとりあえず(仮)を付けときました。また判明したら直そう。長安側との認識の微妙なずれはよくある事なので気にしてはいけない(笑) (2000/07/23(Sun) 03:46:23)
鳥乃 > 美耶子さん今まで出一番恐いね…ホントに…(笑) そうか、和己くんの方がシスコンなのか…(爆) (2000/07/23(Sun) 04:34:49)
ひじり > そこには……。って何!? 一体何が書いてあったんだ? 後、美耶子さん禁断の愛に走らない様に(笑) (2000/07/23(Sun) 06:30:36)
ぐちゃ > 美耶子さんはどんな男が好みなんだろう? (2000/07/23(Sun) 08:28:38)
長安 (あおい擁護衆) > どっちが和解を先に申し込んだんだろう? (2000/07/23(Sun) 08:58:54)
ま〜き〜(あおい擁護衆&綾会) > 眞治君・・・ちょっぴり哀れ・・ (2000/07/23(Sun) 09:28:00)
ワイルドキャット > 整備課ボンバーより数段怖いですよね(笑)>鳥乃さん この話はリーベデルタに入学する前年の話なんでつまり……>ひじりさん 頼り甲斐のある男でしょうかね。密かに甘えたいという願望があったりするんで(笑)>ぐちゃさん さあ?(笑)>長安さん 間の悪いやつと言うのはいるもんです(笑)>ま〜き〜さん (2000/07/23(Sun) 15:39:12)
長安眞一 > 眞治の奴、ざまあ見ろ!!そうか、藤本家から情報が漏れたのか。 (2000/07/23(Sun) 15:50:10)
ゆうきゃん > あ、なるほど。それでリーベデルタへ来たんですねぇ。 (2000/07/23(Sun) 19:06:18)
ほろほろ > ワイルドキャットさん実は「属性:ダ−ク」っす。^^;ドラゴンランスなら絶対「中立」なんでしょうね。 (2000/07/24(Mon) 01:51:38)
高原ユウ > 翔も「ニュートラル」、綾は「ローフル」っと(笑) しかし、美耶子さん直情的になりすぎ(爆) (2000/07/24(Mon) 02:08:08)
coil > 男のニュートラルはいまいち使い勝手が悪くて……って、ネタが少し違ってる(笑) (2000/07/24(Mon) 08:50:24)
ワイルドキャット > ダーク???うーん意味が良くわからん(笑) (2000/07/24(Mon) 17:06:04)
すぴんねっと > スピンはニュートラル・・・かなぁ?(^^;) 美耶子さん、何もそこまでせんでも・・・(笑) (2000/07/24(Mon) 17:26:15)

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