愉快な真面目。〜中篇〜

 「親子の縁を切りたいんです、あたし。」
 突拍子も無い・・・いや、もはや無謀ともいえる依頼。それは誰の目から見たって明らか。普通、親子の縁を切りたい!なんて言わないもんね。
「レティスちゃん、いくらお父さんがああだからって、それはないんじゃないの?」
 リーガルおじさんは、いつもの冗談だと思っているようだ。あたしは、いつも本気で言ってるのに、この人は冗談としか見てくれない。似たようなことを言うと、決まった答えが返ってくるのだ。「いや〜、レティスちゃんは、本当に面白い子だねぇ。」と。
「今回は、本気なんです。親子の縁を切りたいんです。あたしの自由の・・・ひいてはお母さんのために。」
 あたしが、しっかりしなきゃいけないんだ。大好きなお母さんの幸せのためにも。あんなの父親じゃないもん。お母さんを全然構ってあげないようなやつなんか。
「しかしねぇ・・・。」
 困ったなぁって顔して、リーガルおじさんが腕を組んだ。いつもみたいに「レティスちゃんておもしろい子だねぇ」って言わないところを見ると、本気で話をきいてくれるのかしら。
「方法が無いわけじゃないでしょ、おじさん。」
「そりゃあ、あるよ。縁を切る方法なんていくらでも。」
 お、話がいつもより進み始めた。チャンス!ここで引いたら敗北も同然よ。押し切ってリーガルおじさんを味方につけなきゃ。がんばれあたし。負けるなあたし。
「まず・・・親子の縁を切る方法だけどね・・・。親が不行跡だった場合・・・簡単にいうと、親としての義務を果たしていない場合ね、この時は、親権喪失を請求できるよ。まぁ、子供の生活を脅かされる場合だけど。」
「ふむふむ。それで?」
「この場合、後見人が必要になってくるんだ。誰かいる?」
「父の叔父さんに当たる人がいます。あたしのことすごい可愛がってくれるから、大丈夫だと思います。」
「請求が認められれば、君はスピンネットの娘じゃなくなる。もっとも、お母さんの娘でもなくなっちゃうけど。」
「え?」
「そうすれば君は自由の身だよ。裁判所命令でスピンネットを近づけることも不可能にできるしね・・・。」
 ちょっと、冗談じゃないわよ。お母さんとも離れなきゃいけないなんて・・・。絶対イヤ!断固としてイヤ!第一、目的から離れちゃうじゃない。
「そんなのイヤです絶対に!お母さんとは別れたくないんです。父親は別として・・・。他にもあるじゃないですか、離婚とか。」
「離婚ね・・・。」
 心の中でリーガルは舌打ちした。無茶な提案をしたのは、レティスを諦めさせるための作戦だったのだ。そもそもこんな提案は不可能である。何故なら、スピンネット本人が不行跡であっても、レティスの母親は立派に子供を育てている。その証拠としてかどうか、レティスは父親よりずっと評判のよい娘に育っているではないか。
<子供だと思って甘く見すぎていたかなぁ・・・。>
 14歳という年齢は、子供でありそして大人でもある。リーガルは、真剣な目つきで座っている
レティスを、できるだけ大人の依頼人として扱うことにしよう・・・と考えた。それが最も、彼女にとって相応しい態度だろうと思ったからだった。
「私、少しは勉強したんです。母の場合、協議離婚より、調停離婚の方がいいんですよね。」
 真剣な目で、リーガルを食い入るようにみるレティス。彼女には、父親と同じものを感じずにはいられない。それは危惧すべきものだろうか。
「それは調停離婚になるだろうさ。君のお父さんが別れようとはしないだろうからね。」
 正確に言えば、この夫婦の場合、離婚は成立しない。離婚とは、お互いが同意の上で別れるものであって、決して片方の言い分のみで離婚できないのである。
「それはいいとして・・・原因は何にするの?」
 席を立ちつつ、リーガルは話し掛けた。紅茶でも飲みながら、じっくり考えたかった。お酒があればなぁ・・・という考えはできるだけ頭の中から外すように努力する。自暴自棄になるのは避けたいところだ。
<こんなとき、フタバさんならなんて説得してくれるかなぁ。>
 愛妻の顔を思い出し、彼は大きなため息をついた。男は、こういった内容を解決するのには不向きなのである。ましてや、今回の依頼人が彼女とあっては・・・。まったく、親子そろっていい迷惑だ。
「原因は・・・父の浮気です。」
「浮気ねぇ・・・。」
 レティスに紅茶を出しつつ、リーガルは鷹揚な声で反唱した。確かに、スピンネットが相葉夫人を今でも追いかけているのは、周知の事実である。
 にしてもだ。彼女の構想はムチャクチャとしか言いようがない。確かに、彼の父親は、相葉夫人を今でも追いかけている。だからといって、それが浮気となるだろうか。自分の父親がアイドルの追っかけをやっているという理由で、離婚を迫るなどと言う話は聞いたことがない。もしあればあったで、裁判所に怒られるのがオチだ。
「あれって浮気とは言わないでしょ?第一、君のお父さんは相葉婦人と直接・・・」
「自分の妻を愛さないで、他の女にウツツを抜かすのを浮気って言うんです。」
 なんとももっともらしい意見である。今度、離婚裁判に立ち会った時は、その台詞を使わせてもらおうなどと、リーガルは思った。ムチャクチャでありすぎて、彼は真面目に相談を受ける気力を無くしつつあった。
<こういうところが、まだ子供なんだよな>
「その問題は後回しにするとして、君はお母さんを説得できるの?できなければ離婚請求なんて不可能だよ?」
 亭主があんなだから、普通であれば、とうの昔に離婚していて当然だ。それがここまで何もなく、平和であることを考えると、レティスの母親は、スピンネットを愛しているとしか考えられない。そのことをレティスは承知しているのだろうか。
「説得はします。絶対に。どんなことをしても。今のままじゃお母さん可哀想だもん。」
 それは君が思っているだけじゃないの?という質問をリーガルは、胃の中に押し込めた。14歳の少女には酷な質問だと判断したからだ。まあ、これだけ父親の文句ばかり言っているということは、気になっている証拠である。素直になれない時期。14歳とはそういう年齢だろう。
「お母さんが好きなんだね。」
 お父さんが嫌いなんだね?とは言わないのが、彼の妙技である。
「はい、大好きです。お母さんがあんなだから、あたしがしっかりしなきゃいけないんです。」
 妙な正義感だとリーガルはつくづく思う。彼女の母親は、それこそ彼女の人生の二倍以上生きているわけだし、彼女よりずっと多くの経験をしてきているのだ。少なくとも、レティスよりは「生きる」事に関してはレベルが上のはず。それを母親よりもレベルが下の娘が心配するとは・・・。
 最も、ただ長く生きているから経験を積んでいるとは言い切れない。したがって、最悪の仮定をすれば、レティスが母親を導くということだって十分にありうるのだが。
「おじさん、別に浮気だけが離婚原因じゃないでしょ?」
「まあね、別の言い方はいろいろあるさ。」
「今まで、どんなウソついてきたの?」
「あのねぇ・・・大人をからかうものじゃないよ」
「アハハ、冗談です。ごめんなさい。」
 リーガルの罰の悪い顔が面白かったのだろうか、レティスは自分の立場を忘れて笑う。一瞬の後、思い出したらしく素早く顔の筋肉を移動させると、また真面目な顔つきに戻る。その笑いから真面目な顔つきへと移る間合いはどことなく、彼女の父親に似ていた。
「例えば、趣味が行き過ぎてても離婚の理由にはなるんでしょ?」
「・・・レティスちゃん、どこでそんなこと習ったの?」
「本に書いてあったんですよ。あたし、何としても離婚させようとおもって勉強したんだから。」
 法律のプロを驚かせることに成功した彼女の顔は、なんとも勝ち誇っていた。極端といえば極端であるが、この際、いいところに目をつけていると言えるだろう。さすがはスピンネットの娘である。・・・あ、この言葉は禁句か。
 「ああ・・そ、そうですか・・・。」
 最近の女の子は、そんな本読んでいるのだろうか。まだ、結婚すらしていないというのに!就職していない人が、転職雑誌を読むのと同じである。家の咲夜には、できるだけそういう知識は与えないようにしよう・・・。リーガルは心底決心した。
 さて、話を戻そうか。趣味が行き過ぎての離婚は、法律上は可能となっている。婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき、離婚は認められるのである。つまり、趣味があまりに行き過ぎて、夫婦のどちらかが「婚姻を継続しがたい重大な事由」と判断した場合、離婚が成立してしまうのだ。この場合、スピンネットの追っかけ(つまり趣味とみなす)が行き過ぎであり、かつ、レティスの母が婚姻を継続できない重大な事由と判断すれば、ものの見事に離婚訴訟が成立してしまう。それはもうあっさりと・・・。
 親権も、このままいけばレティスの母親が得ることなる。裁判所とて、追っかけをやっている父親に親権を渡すほど愚かではない。かくしてスピンネットは多額の慰謝料を取られた上、最愛の娘まで失ってしまうのであった・・・。
「そんなのイヤ〜」
 哀れスピンネットは、一人身に戻ってしまったとさ・・・めでたし、めでたし。

(完・・・)

「ちょっと待てェ!」
 はい、なんでしょう。
「これでいいと思ってるのか?S氏が泣くぞ。」
 いいじゃん、別に。
「でもさぁ。」
 うーん。分かった、じゃあ次回で終わりって事にしよう。ちゃんと、レティス嬢が諦めるようにして。
「そうそう、それでいいの。」
 ところで、あなた何者?


 というわけで、某人物の差し金により続くことになってしまいました。こんな長くするつもり無かったんですけどね。それと、法律は、日本の民法を参考にしました。とりあえず分かりやすいように書いたんで、かなり飛んでます。法律を勉強している方が読んだら「不勉強!」の嵐でしょうけど(爆)ごめんよぉ、親族法は苦手なんだよぉ〜。



--------------------------------------------------------------------------------
ほろほろ > 趣味で離婚てえと…芦屋小雁と斎藤とも子ですな(笑 (2000/08/26(Sat) 06:39:31)
ま〜き〜(あおい擁護衆&綾会) > リーガルさん・・・優しいねぇ・・面倒くさがりなだけか? (2000/08/26(Sat) 12:39:07)
すぴんねっと > ・・・某人物って誰?(笑) いやぁ、やはりゆうきゃんさんのSSには味がありますな。スピン娘の描写もグッドです♪ (2000/08/26(Sat) 18:14:07)
ぐちゃ > ここで終われば立派な逆スピ会作品なのに。 (2000/08/26(Sat) 19:34:40)
鳥乃 > こういう展開だと、母親の対応が気になるなぁ…(笑) (2000/08/26(Sat) 21:54:26)
神麻 薫(チーム着ぐるみ・19&神麻組組長) > 離婚は周りにも結構くるからなぁ、色々と。それはともかく、奥さんの『愛』によっては、スピ会にもできますね(^o^)/ (2000/08/27(Sun) 02:32:24)
ゆうきゃん > レス返しです ほろほろ様>趣味じゃないっす!真剣・・・でもないんだけど。 ま〜き〜さん>優しいというより、ただ扱いにくいだけでしょう。めんどくさいだけかな。 すぴんねっとさん>それは秘密です(爆) ぐちゃさん>ハッ!それもいい手だったんだ・・・。といっても、今回は逆スピじゃないのです。 鳥乃さん>すぴんねっと氏に聞いてください。母親は誰なのか(ニヤリ) 神麻 薫さん>奥さんは、人間ができた人ですよね。スピンにはもったいないくらいです。 (2000/08/28(Mon) 01:55:06)

作者別index
総合index
小説入口
top